オンプレの現場には、Windows Serverで構築されたSMB共有フォルダやNetApp・EMCといったNASが今も多く稼働している。これをAWSに移行しようとしたとき、「S3に置き換えればいい」と考えると後で痛い目に遭う。Amazon S3はオブジェクトストレージであり、SMBやNFSのようなファイルシステムプロトコルには対応していないからだ。
そこで登場するのがAmazon FSxだ。マネージド型のファイルシステムサービスで、Windows共有フォルダ(SMB)からLinux向けNFS、高速並列ファイルシステムまでカバーしている。
この記事では、Amazon FSxの4種類のサービス区分・料金の仕組み・マウント手順・オンプレNAS移行時の設計ポイントを、インフラエンジニア視点で解説する。
なぜAmazon FSxが必要なのか?他のストレージサービスとの違い
AWSのストレージサービスは複数あり、それぞれ役割が根本的に異なる。
| サービス | プロトコル | 主な用途 | オンプレ相当 |
|---|---|---|---|
| Amazon S3 | HTTP/S(REST API) | オブジェクト保管・静的配信 | オブジェクトストレージ |
| Amazon EBS | ブロック(iSCSI相当) | EC2の起動ディスク・DBデータ領域 | SAN / ローカルディスク |
| Amazon EFS | NFS v4 | Linux EC2の共有ファイルシステム | NAS(NFS対応) |
| Amazon FSx | SMB / NFS / Lustre等 | Windows共有・HPC・NetApp互換等 | Windows共有フォルダ / NAS / HPC |
EFSとFSxの大きな違いはプロトコルとOS対応だ。EFSはLinux専用のNFS v4サービスで、WindowsクライアントやActive Directoryとは連携できない。FSx for Windows File ServerはSMBに完全対応しており、オンプレのWindows共有フォルダと同じ感覚で使える。
LinuxでNFSマウントの共有ファイルシステムが必要な場合は、Amazon EFS入門ガイドを参照してほしい。S3・EBS・EFSの3サービスを横断比較したい場合はAWS S3・EBS・EFS 徹底比較ガイドも役立つ。
Amazon FSxのサービスラインアップ
Amazon FSxには2026年7月時点で4種類のマネージドファイルシステムがある。
・FSx for Windows File Server: SMBプロトコル対応・Active Directory統合。Windows共有フォルダの直接的な移行先
・FSx for Lustre: 高速並列ファイルシステム。HPC・機械学習・動画レンダリング向け
・FSx for NetApp ONTAP: NetApp ONTAPとの互換性。SMB・NFS・iSCSIのマルチプロトコル対応
・FSx for OpenZFS: ZFSベースのファイルシステム。高速スナップショットとLinux互換
以降は現場での需要が特に高いFSx for Windows File ServerとFSx for Lustreに絞って解説する。
FSx for Windows File Server の仕組みと特徴
FSx for Windows File ServerはAWSが管理するWindowsファイルサーバーだ。バックエンドはWindowsサーバーで動いており、SMBプロトコルに完全対応している。
・Single-AZ / Multi-AZ構成: 業務継続性が必要ならMulti-AZを選択。スタンバイサーバーが別AZで待機する
・SSD / HDD ストレージ: アクセス頻度によって選択。頻繁にアクセスするデータはSSD推奨
・バックアップ: 日次自動バックアップが標準で有効(30日間保持)。手動バックアップも任意のタイミングで取得可能
・スループット容量: 8 MBps~2,048 MBpsから選択。後から変更できる
・DFSネームスペース: Windowsのファイルサーバー分散機能(DFS-N)もサポート。複数のFSxを1つの名前空間に統合できる
基本的な使い方(コンソール操作)
1. ファイルシステムの作成
AWSコンソールで「FSx」を開き「ファイルシステムの作成」→「Amazon FSx for Windows File Server」を選択する。
① デプロイタイプ: Single-AZ(コスト優先)またはMulti-AZ(可用性優先)を選択
② SSDストレージ容量: 32GB以上(最小値)から設定。後からオンラインで増量できる(縮小は不可)
③ スループット容量: 8 MBps(最小)から設定。後から変更可能
④ VPC・サブネット・セキュリティグループ: ファイルシステムを配置するVPCとサブネットを指定。セキュリティグループはTCPポート445(SMB)を開放する
2. Active Directory連携
「Windows認証」セクションで、AWSが管理するActive Directory(AWS Managed Microsoft AD)または既存のオンプレADを選択する。
# AWS Managed Microsoft AD の作成(AWS CLI) aws ds create-microsoft-ad \ --name corp.example.com \ --short-name CORP \ --password "YourAdPassword!" \ --vpc-settings VpcId=vpc-xxxxxxxx,SubnetIds=subnet-aaaaaaaa,subnet-bbbbbbbb \ --edition Standard \ --region ap-northeast-1
オンプレの既存ADと連携する場合は「既存のActive Directory」を選択し、ADドメイン名・DNS IPアドレス・サービスアカウント(ドメイン参加権限を持つユーザー)を設定する。AD連携によりオンプレと同じアクセス権管理(ACL・グループポリシー)がFSx上でも有効になる。
3. SMBマウント(Windowsクライアントから)
ファイルシステムが作成されると、DNS名(例: amznfsx12345678.corp.example.com)が払い出される。WindowsクライアントまたはEC2 WindowsインスタンスからSMBマウントするには以下のようにする。
# コマンドプロンプトからのネットワークドライブ割り当て net use Z: \\amznfsx12345678.corp.example.com\share /persistent:yes # PowerShellからの場合 New-PSDrive -Name Z -PSProvider FileSystem ` -Root "\\amznfsx12345678.corp.example.com\share" -Persist # マウント確認 Get-PSDrive Z
オンプレのNASデータをFSxに移行する際はAWS DataSyncを使うと効率的だ。AWS DataSyncはNASからFSxへのデータ転送を自動化・並列化してくれる。オンプレとAWSの接続にはDirect ConnectまたはSite-to-Site VPNが必要になるケースが多い。接続方式の選び方についてはAWS Direct Connect vs Site-to-Site VPN比較ガイドを参考にしてほしい。
FSx for Lustre の仕組みと特徴
FSx for Lustreは高速並列ファイルシステムのLustreをマネージドサービスとして提供するものだ。オンプレでは大規模な科学計算・CAEシミュレーション・動画レンダリングファームで使われるLustreを、AWSが管理・運用してくれる。
・Scratch(スクラッチ): 一時的な処理に最適。SSD・低価格・データ保護なし(ノード障害時にデータが失われる可能性あり)
・Persistent(持続的): 長期利用向け。SSD・高可用性・ストレージノード間でのデータレプリケーション付き
・S3連携: S3バケットのデータをFSx for Lustreからマウントして高速処理し、結果をS3に書き戻す設計が定番。S3からLustreへのデータインポートはレイジーロード方式(アクセス時に初めてS3からLustreへコピー)
# FSx for Lustre をEC2(Amazon Linux 2)にマウント # Lustreクライアントのインストール sudo amazon-linux-extras install -y lustre2.10 # マウント実行(FSxのDNS名はコンソールで確認) sudo mkdir -p /mnt/fsx sudo mount -t lustre \ fs-xxxxxxxxxxxxxxxxx.fsx.ap-northeast-1.amazonaws.com@tcp:/xxxxxxxx \ /mnt/fsx # マウント確認 df -h /mnt/fsx
機械学習のトレーニングデータをS3に置き、FSx for LustreをGPUインスタンスからマウントして高速アクセスする構成は今や定番のパターンだ。S3との連携設定を行うと、S3バケット内のファイルがFSxのディレクトリとして見えるようになる。
料金の仕組み(コスト感覚)
FSxの料金はストレージ容量(GB/月)とスループット容量(MBps/月)の2軸で構成される。以下は2026年7月時点の東京リージョン(ap-northeast-1)の目安だ(為替・改定により変動あり。詳細は公式ページで確認すること)。
| サービス | ストレージ種別 | ストレージ料金(目安) |
|---|---|---|
| FSx for Windows File Server | SSD(Single-AZ) | 約$0.23/GB/月(2026年7月時点) |
| FSx for Windows File Server | HDD(Single-AZ) | 約$0.025/GB/月(2026年7月時点) |
| FSx for Lustre | SSD Scratch | 約$0.14/GB/月(2026年7月時点) |
| FSx for Lustre | SSD Persistent 1 | 約$0.26/GB/月(2026年7月時点) |
FSx for Windows File Serverはスループット容量にも別途料金がかかる。SSD・Single-AZの場合、8 MBpsで約$1.50/MBps/月(東京リージョン、2026年7月時点)が目安だ。
【コスト注意点】HDDストレージを選ぶ場合、スループット容量の最小値が32 MBpsとなるため、小規模な共有フォルダでは思わぬ料金になることがある。100GB未満の小さな共有フォルダなら、SSD + スループット8 MBpsのほうが最終的に安いケースが多い。計算してから選ぼう。
バックアップデータはS3に保存されるが、バックアップのストレージ料金として約$0.05/GB/月が別途かかる(2026年7月時点)。AWS Backupと連携すれば、FSxのバックアップをEC2・RDS・EFSとまとめて一元管理できる。
応用・実務Tips
・データ移行はAWS DataSyncで自動化する: rsyncより高速で、差分転送・自動再試行・整合性検証が付いている。オンプレNASからFSxへの移行では事実上の標準ツールと考えていい
・DNSエイリアスでカットオーバーを透過的に: FSx for Windows File ServerはWindowsのDNSエイリアスを設定できる。クライアント側のパスを変更せずに「旧NASのパス」から「FSx」へシームレスに切り替えられる
・シャドウコピー(以前のバージョン)を有効にする: FSx for Windows File ServerはWindowsのシャドウコピーをサポート。エンドユーザーが自力でファイルの旧バージョンを復元できる環境をオンプレと同様に維持できる
・NetApp移行ならFSx for NetApp ONTAPも検討する: NetApp ONTAPと高い互換性があり、NetApp固有の機能(SnapMirrorによるレプリケーションなど)をそのまま使える。SMB・NFS・iSCSIのマルチプロトコル対応も強み
・LinuxサーバーとのNFSマウントが必要な場合: EC2のLinuxインスタンスにFSxをマウントして使う際は、Linuxのマウント・パーミッション設定の知識が必要になる。Linux基礎については姉妹サイトLinuxMaster.JPで詳しく解説している
よくあるトラブルと対処法
・SMBマウントができない(アクセス拒否): セキュリティグループでTCPポート445が開放されているか確認。EC2インスタンスからFSxへのアウトバウンド445と、FSxのセキュリティグループのインバウンド445の両方を確認すること
・ADドメイン参加に失敗する: FSxはADのDNSサーバーに疎通できる必要がある。VPCのDHCPオプションセットにAD DNSサーバーのIPを設定し、適切なVPC内にFSxをデプロイすること
・スループットが想定以下: CloudWatchの「NetworkThroughputUtilization」メトリクスでスループット上限に達していないか確認する。上限に近ければスループット容量を増やす(コンソールから変更可能)
・ストレージ拡張直後に空き容量が増えない: 容量の増量(スケールアップ)は反映まで最大数時間かかることがある。縮小は不可なので、最初のサイジングは余裕を持って設定する
・FSx for Lustreのマウントに失敗する: Lustreクライアントのバージョンがファイルシステムと一致しているか確認する。Amazon Linux 2では amazon-linux-extras install lustre2.10 でインストールするのが確実。EC2のUserDataでの自動インストールを組み込むと運用が楽になる
本記事のまとめ
・Amazon FSxはWindows共有(SMB)・HPC(Lustre)・NetApp ONTAP互換・OpenZFSの4種類のマネージドファイルシステムを提供する
・オンプレのWindows共有フォルダ移行にはFSx for Windows File Serverが最有力。ADとSMBに完全対応し、DNSエイリアスで透過的なカットオーバーが可能
・機械学習・HPC向けにはFSx for Lustre。S3と組み合わせてトレーニングデータの高速処理を実現する構成が定番
・料金はストレージ容量とスループット容量の2軸。小規模な共有フォルダではHDDよりSSD+最小スループットのほうが安い場合がある
・データ移行にはAWS DataSyncを使う。オンプレとAWSの接続方式もDirect Connectを含めて事前に設計しておくこと
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