コスト最適化の推奨が Compute Optimizer、Cost Explorer、Trusted Advisor と複数の場所に散らばっていて、どこから手をつければいいかわからない──。
AWSを使い込むほど、こういう悩みは出てきます。サービスごとに「推奨」が出るため、全部確認しようとするとコンソールを何画面も行き来することになります。
この記事では、2022年12月に発表され2023年から一般提供されているAWS Cost Optimization Hubについて解説します。有効化の手順、推奨の読み方、FinOpsワークフローへの組み込み方まで、コスト管理を一元化したいエンジニアに向けた実践ガイドです。
コスト最適化の推奨が「散在」している問題
オンプレ時代のコスト管理は、サーバー調達費用や保守契約の見直しが中心でした。クラウドに移行すると、インスタンスサイジング、ストレージクラスの選択、コミットメント割引の購入タイミングなど、チューニングポイントが一気に増えます。
AWSがコスト削減のために提供しているサービスは複数あります。
・AWS Compute Optimizer: ML分析によるEC2・Lambda・EBS・ECS on Fargateのライトサイジング推奨
・AWS Cost Explorer(ライトサイジング推奨): EC2インスタンスの変更推奨と使用量に基づくSavings Plans推奨
・AWS Trusted Advisor: 未使用・低使用率リソースの検出とセキュリティチェック
・Savings Plans / RI推奨: コミットメント割引の最適購入量の算出
これだけ分散していると、毎月のコストレビューで「どのコンソールを開けばいいのか」迷いが生じます。推奨の内容が重複していたり、片方にしかない推奨を見落としたりすることも起きます。
AWS Cost Optimization Hubは、この問題を解消するために設計された「推奨の集約・可視化サービス」です。
AWS Cost Optimization Hubとは
Cost Optimization Hubは、2022年12月のAWS re:Inventで発表され、2023年から一般提供が始まったサービスです。AWS Cost Managementコンソールに統合されており、Compute OptimizerやCost Explorerなどの各サービスが出力するコスト最適化推奨を一か所に集約して表示します。
オンプレで例えるなら「各担当者から上がってくる改善提案を一枚のチェックリストにまとめ、インパクトの大きいものから順に実施していく」感覚に近いです。推奨の発生源(Compute Optimizer、Cost Explorerなど)はそれぞれ独立して動作しており、Cost Optimization Hubはその「集約・優先度可視化レイヤー」を担います。
サービスの利用は無料です。有効化するだけで推奨が集約されます。推奨を実行した結果(インスタンスタイプを変更した、RIを購入したなど)に応じた料金が発生しますが、推奨の閲覧・管理そのものにコストはかかりません(2026年7月時点)。
1. 集約される推奨の種類
Cost Optimization Hubが集約する主な推奨は以下のとおりです(2026年7月時点)。
| 推奨カテゴリ | 対象リソース | 推奨例 |
|---|---|---|
| ライトサイジング | EC2インスタンス | m5.xlarge → m5.large への変更(CPU使用率が低い場合) |
| ライトサイジング | AWS Lambda | メモリ設定の削減(推定節約額と実行時間への影響を提示) |
| ライトサイジング | EBSボリューム | プロビジョニドIOPS(io1)→ gp3 への移行 |
| ライトサイジング | ECS on Fargate | タスク定義のvCPU・メモリ設定の削減 |
| コミットメント割引 | EC2・Fargate・Lambda | Compute Savings Plansの購入推奨(1年・3年) |
| コミットメント割引 | EC2(特定ファミリー) | EC2 Instance Savings Plansの購入推奨 |
| アーキテクチャ移行 | EC2・Fargate | x86→Graviton(ARM64)への移行推奨 |
| リソース停止・削除 | EC2・RDS等 | 長期間未使用・低稼働リソースの停止推奨 |
2. AWS OrganizationsとのマルチアカウントAccount対応
AWS Organizationsで複数のAWSアカウントを管理している場合、管理アカウント(Management Account)からCost Optimization Hubを有効化すると、すべてのメンバーアカウントの推奨をまとめて確認できます。アカウント数が増えるほど、一元管理のメリットが大きくなります。
有効化の手順
1. Cost Optimization Hubにアクセスする
AWSマネジメントコンソールにサインインし、検索バーに「Cost Optimization Hub」と入力してサービスページを開きます。AWS Cost Managementコンソールの左メニューにも「Cost Optimization Hub」が表示されます。
2. オプトインを実行する
初回アクセス時に「Get started」ボタンが表示されます。クリックするとオプトインの確認画面が出るので、設定を確認して有効化します。設定は数分で完了します。
3. Compute Optimizerの連携を確認する
Cost Optimization Hubが出力するライトサイジング推奨の多くは、AWS Compute Optimizerのデータを活用しています。Compute Optimizerが有効化されていない場合、EC2・Lambda・EBS・ECS on Fargateのライトサイジング推奨が表示されません。
Cost Optimization Hubのオプトイン画面からCompute Optimizerとの連携状態を確認でき、まだ有効化していない場合はここから同時に設定できます。
4. メンバーアカウントの設定(マルチアカウント環境のみ)
AWS Organizationsを使ったマルチアカウント構成では、管理アカウントでオプトインする際に「メンバーアカウントの推奨を含める」設定を選択できます。有効化後は、アカウントIDでフィルタリングしてメンバーアカウントごとの推奨に絞り込むことも可能です。
推奨の読み方と優先順位の付け方
1. ダッシュボードの見方
有効化後しばらくすると、ダッシュボードに推奨が集約されて表示されます。画面上部には「推定年間節約額(Estimated Annual Savings)」の合計が表示され、全体的なコスト削減機会のボリュームを一目で把握できます。
各推奨には以下の情報が含まれます。
・推奨タイプ: ライトサイジング、Savings Plans購入、Graviton移行など
・対象リソース: インスタンスID、関数名などの具体的なリソース識別子
・推定月間節約額: 変更後の削減見込み金額(USD)
・現在の月額推定コスト / 推奨後の月額推定コスト: 変更前後の料金比較
・実装コスト(Implementation effort): Very Low / Low / Medium / High の4段階
2. 優先度マトリクスで絞り込む
推奨が多い環境では、「節約額が大きく、実装コストが低い」推奨から着手するのが鉄則です。以下の条件でフィルタリングすると効率的です。
・実装コストでフィルター(Very Low / Low): まず確認する推奨を絞り込む
・推定月間節約額の降順ソート: インパクトの大きい推奨を優先
・リソースタイプでフィルター: 担当チームの管轄リソースに絞り込む
・アカウントIDでフィルター: マルチアカウント環境で担当アカウントに絞る
「実装コスト:Very Low、月間節約額:$500以上」の推奨を先に実施するだけで、全体の削減インパクトの大部分をカバーできるケースが多いです。
3. 節約額の計算モードを理解する
推定節約額には「Before Discounts(割引適用前)」と「After Discounts(割引適用後)」の2つのモードがあります。
・Before Discounts: オンデマンド料金ベースで節約額を計算。Savings PlansやRIを使っている場合、実際の節約額より大きく見える
・After Discounts: 現在適用されている割引を考慮した節約額。実態に近い数字
Savings PlansやRIをすでに活用している環境では、After Discountsモードで確認することを推奨します。Before Discountsモードでは「実際にはすでに割引が効いているリソース」の節約額が過大に見えてしまうためです。
Compute Optimizer・Trusted Advisor・Cost Explorerとの役割分担
「Cost Optimization Hubを使えば他のツールは不要になるのか?」という疑問はよく聞きます。それぞれ役割が異なるため、使い分けが大切です。
| サービス | 主な役割 | Cost Optimization Hubとの関係 |
|---|---|---|
| AWS Cost Optimization Hub | 複数ソースの推奨を一元集約・優先度可視化 | ─(本サービス) |
| AWS Compute Optimizer | ML分析による詳細なリソースサイジング推奨 | 推奨の主要ソース。根拠の詳細分析はCompute Optimizerを参照する |
| AWS Cost Explorer | コスト履歴の詳細分析・SP/RI購入推奨 | 推奨の一部ソース。コスト傾向分析はCost Explorerが詳細 |
| AWS Trusted Advisor | コスト・セキュリティ・パフォーマンスの総合チェック | コスト推奨の一部と重複。セキュリティ・パフォーマンスチェックはTrusted Advisorが担う |
| AWS Cost Anomaly Detection | 異常なコスト急増の自動検知 | Cost Optimization Hubの対象外。コスト急増対策は別途設定が必要 |
ざっくり言うと、Cost Optimization Hub = コスト削減のTo-Do管理ツールです。個々の推奨の根拠を深掘りしたい場合はCompute OptimizerやCost Explorerを開き、コスト急増への対応にはCost Anomaly Detectionを別途使う、というように役割を分担して使います。
FinOpsワークフローへの組み込み方
1. 月次コストレビューへの組み込み
FinOpsの基本サイクルは「Inform(可視化) → Optimize(最適化) → Operate(運用)」です。Cost Optimization Hubは「Optimize」フェーズの主要ツールとして機能します。月次コストレビューに以下の手順を組み込むことで、推奨の見落としを防げます。
・ステップ1: Cost Optimization Hubで推定節約額の合計と上位推奨を確認
・ステップ2: 実装コストVery Low・Lowの推奨を降順ソートで確認し、実施対象を選定
・ステップ3: 選定した推奨をチケット管理ツール(Jira・Backlog等)に起票し、担当者と期限を設定
・ステップ4: 前月に起票した推奨の実施状況を確認
・ステップ5: 実施後のコスト変化をCost Explorerで検証
このサイクルを毎月回すことで、削減機会が積み残されることなく消化されていきます。
2. タグを活用したチーム別ビュー
Cost Optimization Hubはコスト配分タグでフィルタリングできます。「Team」「Environment」「Project」などのタグがリソースに付いていれば、チームごとに「自分たちが対応すべき推奨」を絞り込んで確認できます。
タグが整備されていない環境では、まずコスト配分タグ戦略を整えることを先決にするのが現実的です。タグなしでは推奨の担当振り分けが曖昧になり、「誰の仕事でもある=誰もやらない」という状態になりがちです。
3. AWS Organizationsとの連携
AWS Organizationsでマルチアカウントを管理している場合、管理アカウントのCost Optimization Hubからすべてのメンバーアカウントのデータをまとめて確認できます。FinOpsチームが全体を俯瞰し、各アカウントの担当チームに推奨をトリアージして割り振るという運用が機能しやすくなります。
実務でよくあるつまずきと対処法
【注意】有効化直後は推奨が出にくい
Cost Optimization Hubを有効化してすぐには、推奨が少ない状態になります。Compute Optimizerがライトサイジング推奨を生成するには最低14日分のCloudWatchメトリクスが必要です。有効化後1~2週間してから確認するのが適切です。
【注意】「実装コスト:Very Low」でも業務影響の確認は必須
ライトサイジング推奨は「インスタンスタイプを変更するだけ」に見えますが、スタンドアローンのEC2は停止→タイプ変更→起動のプロセスが必要で、ダウンタイムが発生します(Auto Scalingグループの場合はローリング更新で無停止も可能)。実装コストのラベルは技術的な変更難易度の指標であり、メンテナンスウィンドウの設定や関係者への通知といった業務影響の評価は別途行う必要があります。
【注意】Savings Plans推奨は使用量トレンドを確認してから
Cost Optimization HubにはSavings Plans(SP)の購入推奨も表示されます。SPはコミットメント割引であり、1年または3年の利用料金をコミットします。推奨どおりに購入する前に、Cost Explorerで過去の使用量トレンドを確認し、将来の使用量見込みを精査してから実行することが重要です。使用量が変動しやすい環境では、コミットメントが過剰になるリスクがあります。
APIで推奨データを外部ツールと連携する
Cost Optimization HubはAPIを通じて推奨データを取得できます。AWS CLIやSDKで推奨リストを取得し、社内ダッシュボード(Grafana、Amazon QuickSightなど)に取り込んで「コスト削減進捗を経営向けレポートに可視化する」といった活用も可能です。
# AWS CLIで推奨一覧を取得する(AWS CLIコマンド例) aws cost-optimization-hub list-recommendations \ --region us-east-1 \ --max-results 100 \ --output json # JMESPath で実装コストが Very Low の推奨だけを抽出する例 aws cost-optimization-hub list-recommendations \ --region us-east-1 \ --query "items[?implementationEffort=='VeryLow']" \ --output table
本記事のまとめ
AWS Cost Optimization Hubは、分散していたコスト最適化推奨を一か所に集約し「どこから手をつければいいか」を可視化してくれるサービスです。
・無料で利用可能: 有効化するだけでCompute Optimizer・Cost Explorerの推奨が集約される
・優先度の可視化: 推定節約額と実装コストを組み合わせて、インパクトの大きい推奨から実施できる
・マルチアカウント対応: AWS Organizations連携ですべてのアカウントの推奨を一元管理
・FinOpsへの組み込み: 月次レビューのチェックポイントとして活用し、削減機会を積み残さない仕組みを作る
Compute Optimizer、Cost Explorer、Trusted Advisorはそれぞれ詳細分析に強みを持っており、Cost Optimization Hubは「コスト削減のTo-Do管理」として役割を分担して使うのがベストです。
FinOpsの組織的な実践についてはFinOps実践入門で詳しく解説しています。コスト分析の根拠作りにはAWS CURとAthenaを活用したコスト分析ガイドもあわせてご覧ください。
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